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アサザプロジェクト
〜NPOと企業の協働が展く未来〜

2003年11月19日
NPO法人アサザ基金 
代表理事 飯島 博氏
霞ヶ浦の抱える問題とNPO法人アサザ基金が実施している取り組み
 霞ヶ浦は日本で2番目に大きな湖で、湖面積は220平方キロメートル、流域面積はその約十倍にもなります。同時に首都圏に位置する霞ヶ浦は、水質の汚濁や漁業の衰退、森林の減少、人口の増加などの問題を抱えています。工業化や都市化に応じた水資源の大規模な開発により、湖岸はコンクリートで固められ、水門が閉鎖されたことで海との連続性が絶たれたのです。森林やため池などの身近な水源が失われつつあり、流入する水質も悪化。これまで、行政は個別の施策や事業を行ってきたが、抜本的な改善には至っていません。私たちNPOは、このように多様な問題を抱える広大な地域を対象とし、行政と全く異なる独自の戦略による環境保全と地域振興を展開しています。

 1995年に始まった「アサザプロジェクト」は、湖岸植生帯の復元、放棄水田を生かした水質浄化、水源の山林の保全などを、環境教育や保全生態学の先端研究と一体化しながら流域全体で展開。この事業は「市民型公共事業」と呼ばれており、現在までに延べ7万1千人をこえる市民、農林水産業、学校、企業、行政などの多様な主体が参加し、生物多様性の保全を通じて健全な水循環や生態系の物質循環を達成していくための新たな社会システムの構築が進められています。
アサザプロジェクトの影響と効果
 前述のように、アサザプロジェクトは、コンクリート護岸で破壊された湖岸植生帯を回復することから始まりました。浮葉植物アサザをはじめとした在来水草を小学生や市民が育て、植え戻す---これは高価な施設も多大な費用も必要としない、人の『手』で実施可能な公共事業であると同時に、人々が湖に直接触れて理解する重要な環境学習の機会となっています。例えば、約100校の小学校にビオトープ池を設置して在来の水草を育てることが、本来の湖の自然を体験理解したり、学区内から集まってくる生物を調べたりする環境教育の場となっているのです。水草が根付くのを助けるため、NPOが流域の木材(粗朶)を使った消波施設を提案。これが国の公共事業として採用されました。アサザ基金が流域の林業関係者と国の調整役になることで、荒廃が進んでいる森林の管理と湖での自然再生とが同時に実施する仕組みができたのです。これにより、水源林の保全と林業の活性化、新たな雇用の創出などの効果が生まれてい ます。さらに木材(粗朶)を使った消波施設は魚礁となり、水産資源の保護育成にも役立っています。なお、この土木技術は日本の伝統技術を基にしており、古来、自然と共生してきた日本人の知恵を結集したものといえます。

 このほかにも、水源地のため池の復元、農家との連携による休耕田を活用した水質浄化、酒造会社と連携した水源地保全のための地酒づくり、地方自治体と連携した流入河川の環境改善などを行っています。このように、本来つながっているはずの湖、川、水田、森林等に対して行政がばらばらに行っていた公共事業をNPOが相互に連携させることで、事業の効率化と新たな事業展開が実現しています。
強制もなく、利害関係者が自主参加するプロジェクトのあり方
 アサザプロジェクトには、中心となる組織が存在しません。中心にあるのは協働の『場』であり、緩やかなネットワークを通じて各主体が自らの目的を達成することで、環境保全が内部目的化される仕組みになっています。各主体は、環境保全を義務や規制とみなすのではなく、自らの事業を活性化するものとして積極的に取り入れるようになっています。

 このような協働の場のコーディネーターを行うのがNPOの役割です。

 広域ネットワークの構築には、地域にある既存のネットワークを生かしていくことが不可欠です。例えば、農林水産業のように地域の自然環境と産業を単位としたネットワークもあれば、小学校区のように地域コミュニティーを単位としたネットワークもあります。アサザプロジェクトでは、流域の9割を越える170の小学校が参加して、国が行う霞ヶ浦での自然再生事業に必要な在来水草の育成や植え付け作業、お年寄りと共に行う昔の環境調査(自然の復元目標の設定)、流域全域での生物モニタリング(インターネットで全小学校が連携・流域管理システム)等の活動を、地域住民も参加する総合学習の一環として行っています。つまり、異なるネットワーク同士がうまく連携しているのです。また、この一連の事業は保全生態学の最先端の知見に支えられていると同時に研究のフィールドとして活用されています。

 このように協働の場を共有することで、異なる組織による環境保全、教育・人材育成、科学研究、地域振興が一体となった活動が可能になるのです。
21世紀の社会は自然の力を借りて、持続性の実現を
 20世紀は人間が力ずくで自然や社会をコントロールしようとして、多くの自然破壊や公害、貧困や紛争を引き起こしてきた時代でした。アサザプロジェクトでは、自然の回復にも社会の変革にも、力ずくの手法はとりません。既存の社会システムに環境保全機能を組み込むことによって面的な展開を促し、既存の組織に対して、環境保全の軸から新たな価値を見出し、結果として社会全体にゆるやかで深い変革をもたらすのです。

 アサザプロジェクトは100年の長期計画で、10年ごとの達成目標を具体的な野生生物の名を掲げ、その生物が生息できる環境をとり戻すことを軸として設定しています。それぞれの生物は湖と流域に再生する環境要素とそのために必要な施策を総合化するものとして示しています。100年後の目標、つまりゴールは日本の近代化100年の中で絶滅させられた野生のトキです。この活動を通じて、100年前の足尾鉱毒事件(日本の公害事件の原点)、水俣病の公害事件の中で、人々が必死になって闘い守ろうとしたもの、取り返そうとしたものを、トキの舞う風景の中でカタチにしていきたいのです。
今後の展望〜持続可能な社会実現への指針として〜
 最後に、アサザプロジェクトの戦略についてまとめておきたいと思います。まず、これまでの行政主導による事業の進め方とはまったく異なります。地域に元々あった産業や教育といった広がりをもつ社会システムに環境保全機能を組み込むことで、水循環や生態系の物質循環を意識した人やモノやお金の動きを作り出し、地域に則した循環型社会を構築していくことで、湖と流域全体を対象とした事業を展開できています。また、中心を持った組織ではなく、協働の場(アサザプロジェクト)をもった緩やかなネットワークを構築していることも特長です。これにより、ネットワークに参加した各組織がそれぞれ主目的を達成することが、同時に他者にとってもプラスとなり、環境の保全と地域振興の両立が持続的に可能となるのです。

 これらの広域かつ総合的なプロジェクトの実施は、従来の組織では不可能なものでしたが、生活者の視点を持ったNPOという新たな主体が社会に登場したことによって初めて実現したのです。また、このような事業を支えているのは伝統的な技術観、つまり「人格を持った技術」です。それは短期的な効率性だけに目を奪われるのではなく、技術が及ぼす自然的・社会的影響への想像力を備えた技術なのです。アサザプロジェクトで伝統技術を重視する理由もここにあります。

 21世紀は「人格の時代」だと思います。ひとりひとりの自主的主体的な行動なくして、今日の環境問題は解決できないからです。私はIT技術を通して、個々の人格が機能する中心のないグローバルなネットワークの構築を目指しています。目標は循環型社会と世界平和です。

 アサザプロジェクトは、科学や技術のあり方にも変革を促しながら、新たな社会システムの構築を通じて21世紀にふさわしい「生き方」を生み出していく、市民の提案による創造的な取り組みであり、それを全国に広めていきたいと考えています。さらに、地域にある既存の社会システムを生かし、地域の人材や組織、資源、技術を活用して環境保全と両立した地域振興を進めるこのような戦略は、発展途上国においても容易に導入可能であり、国際社会への貢献も視野に入れ、活動を行っていきます。
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11月18日(火)
11月19日(水)

講演者プロフィール
飯島 博氏 ●飯島 博氏
飯島氏は、NPO法人アサザ基金の代表理事として、霞ヶ浦再生事業アサザプロジェクトの企画運営をはじめ、環境計画、ビオトープの企画設計、環境教育プログラムの企画運営などに携わっていらっしゃる他、霞ヶ浦・北浦をよくする市民連絡会議の事務局長も務めておられます。
http://www.kasumigaura.net/asaza/


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